スタートアップが全国紙に載るまでに、実際にやったこと
更新日:9月15日

前回、「ローンチ前に、賞を取りにいった」という話を書きました。プロダクトが世に出る前に助成金コンテストに応募して受賞し、主催者の広告枠で読売新聞オンラインに載った、という話です。あれは、向こうが載せてくれる経路でした。
今回はその逆です。自分から届けるほうの話をします。
2026年9月11日の日本経済新聞に、私が共同創業した「スピーチリンク」というアプリが載りました。その1か月前、8月9日には朝日新聞にも紹介されています。
広告は1円も出していません。
やったことは、4月25日にプレスリリースを1本出しただけです。
そう書くと何かの裏技があったように聞こえますが、実際には地味な話です。ただ、いくつか意図してやったことと、完全に運だったことがあるので、分けて書いておきます。
なぜ4月25日だったのか
ここがいちばん効いたところだと思っています。
4月25日は「失語症の日」です。「4(し)2(つ)5(ご)」の語呂合わせで、言語聴覚士の団体を中心としたプロジェクトによって制定されました。
私たちはこの日にアプリをリリースし、同じ日にプレスリリースを出しました。開発の進捗から言えば、もう少し早くても遅くてもよかった。それでもこの日に合わせたのは、記者が記事を書く理由をこちらで用意しておきたかったからです。
新聞社には毎日おそろしい数のプレスリリースが届きます。そのなかで「新しいアプリが出ました」だけの情報が拾われる確率は、ほぼゼロです。でも「今日は失語症の日です」という文脈があれば、デスクに企画として持っていける。記者にとっての通しやすさが変わります。
記念日にぶつけるというのは、誰にでもできて、しかもお金がかからない。それでいて、実際に効きます。
機能を押したのに、刺さったのは別のところだった
プレスリリースでは、アプリの機能を前面に出しました。世の中にまだないツールだという自負があったし、そこがいちばん語りたい部分だったからです。
ところが、実際に記事になったものを読むと、中心にあるのは失語症という社会課題のほうでした。失語症とはどういう障害なのか。当事者はどれくらいいるのか。支援者を派遣している自治体は全体の4割にとどまっている。2026年4月に施行された高次脳機能障害者支援法で、今後どう変わりうるのか。
私たちのアプリは、その文脈のなかの一例として登場します。
最初は正直、少し物足りなく感じました。でも考えてみれば当たり前で、新聞は製品を紹介したいのではなく、社会の出来事を書きたいわけです。製品はその材料でしかない。
つまり、こちらがやるべきだったのは「うちの製品はすごい」と言うことではなく、「いま社会にこういう問題があって、そこにこういう動きが出てきている」という文脈を用意して、そのなかに自社を置いておくことでした。結果としてそうなったのは半分意図で、半分は失語症の日に合わせたことの副産物です。
載ってから起きたこと
お客様からの問い合わせが、目に見えて増えました。これがいちばん大きい。
もうひとつ、投資家から直接の連絡が1件ありました。これは予想していませんでした。
全国紙に載るというのは、単に読者に届くというだけではなくて、「この会社は実在して、まともに事業をしている」という第三者の保証として機能します。営業資料に一行足せる、という効果のほうが、実は長く効きます。
再現できること、運だったこと
再現できること。記念日や法改正など、記者が記事にする理由になる日付を探して、そこに発表をぶつける。これは調べれば誰でもできます。自社の領域に関係する記念日は、たいてい何かしらあります。
自社の話ではなく、社会の文脈から書き起こす。これも意識すればできます。
出したあと、最低でも半年は待つ。これは心構えの問題です。
運だったこと。4月に高次脳機能障害者支援法が施行されたこと。この法改正がなければ、そもそも記者がこのテーマを追っていなかった可能性は高い。私たちがそこに合わせたわけではなく、たまたま同じ年に重なりました。
あとは、担当された記者の方がこの分野に関心を持っていたこと。これはどうにもなりません。
なので、正直に書けば、やれることをやったうえで、たまたま風が吹いたというのが実際のところです。ただ、風が吹いたときに帆を張っていなかったら、やはり何も起きなかったとは思います。
石渡 達也 Mコンサルティンググループ合同会社 代表社員/スピーチリンク株式会社 COO

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