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ローンチ前に、賞を取りにいった

tatsuyaishiwatari
6月1日
読了時間: 5分

このブログでは、経営とマーケティングの実務で自分が実際にやったことを書いていきます。うまくいったことも、そうでなかったことも。


2026年3月23日の読売新聞オンラインに、私の顔写真とコメントが載りました。


ケアテック・イノベーション・コンテスト2025の受賞者として紹介されたものです。主催は一般財団法人 篠原欣子記念財団、後援は厚生労働省。前日の3月22日に最終審査と表彰式がありました。

ただ、この話の肝は受賞したことではありません。応募した時点で、私たちのプロダクトはまだ世に出ていなかったということです。


応募したのは、ローンチの4か月前


応募したのは2025年の12月頃です。アプリをリリースしたのは翌2026年の4月25日。つまりプロダクトが存在しない状態で応募して、受賞してから世に出したことになります。

順番が逆だと思われるかもしれません。私もそう思っていました。普通は、作って、使ってもらって、数字が出て、それを持って賞に応募する。そういう順序を想像します。

でも実際には、その順序を待っていたら応募のタイミングを逃していました。締切は、こちらの開発の進捗を待ってくれません。


実績がないとき、何を書いたか


応募書類に書いたのは、思いと、これまでの苦労でした。


数字がないので、書きようがなかったというのが正直なところです。なぜこれを作ろうと思ったのか。失語症のある方とご家族が、日々どこで困っているのか。それに対して、なぜ既存の手段では足りないのか。開発の過程で何につまずいたのか。

投資家向けの資料なら、これは弱い書類です。市場規模もLTVもない。同じ内容をVCに出していたら、まず通らなかったと思います。


でも、審査の軸が違いました。


財団が見ているのは、市場規模とリターンではなく、社会課題の解決度です。同じ回の受賞者に中学生がいて、VRを使ったリハビリのシステムを発表していました。小学生から研究者、シードのスタートアップまで誰でも応募できる設計になっていて、その中で中学生が選ばれている。これが審査軸を何より雄弁に示しています。

つまり、実績がないことは、この土俵では必ずしも不利ではありません。多くの人が「まだ実績がないから」と応募を見送りますが、見送る理由としては弱いと思います。


数字の代わりに用意したもの


とはいえ、思いだけで通るとも思っていませんでした。自分たちの熱量は、外から見れば誰にでもあるものです。

そこで用意したのが、第三者の裏づけでした。慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室の川上途行准教授に、推薦をいただいています。脳卒中後のリハビリテーションを専門とされ、コミュニケーション支援に関する編著もある先生です。

自分たちで「これは有効です」と言うのと、その領域の専門家に言ってもらうのとでは、書類の重さがまったく変わります。そしてこれは、プロダクトが動いていなくても用意できるものでした。


もうひとつ、クラウドファンディングで268人の方に支援していただいていました。これは資金という以上に、「見ず知らずの268人が、この構想にお金を出した」という事実として効きます。

実データがないときの代替は、専門家の推薦と、他人が実際に動いた記録です。この2つは、ローンチ前でも用意できます。


56件中8件


プロトタイプ部門には46件、アイディア部門には10件の応募がありました。合わせて56件。受賞は8人です。


約7分の1。


シード期の資金調達の通過率を考えれば、これはかなり通りやすい数字です。しかも、株を1株も渡していません。

ここが助成金のいちばん誤解されている部分だと思っています。多くの起業家が助成金を「資金調達の一種」として見ていますが、初期の会社にとっては、現金以外の部分のほうがしばしば大きい。


今回で言えば、助成金に加えて、厚生労働省後援のコンテストで選ばれたという肩書き。審査員と他の受賞者とのつながり。そして読売新聞オンラインへの掲載です。


あの記事は、広告です


正直に書いておきます。

読売新聞オンラインのあの記事は、財団が出稿した広告特集です。記事の上部に「Sponsored by しのはら財団」、下部に「広告・制作 読売新聞社ビジネス局」と明記されています。編集部が取材して書いた記事ではありません。

でも、だからこそ意味があります。


受賞者は、自分では到底買えない読売新聞の広告枠に、無料で、顔写真とコメント付きで載っている。主催者側が広報予算を持っているので、受賞するとその予算に乗せてもらえる。これが、賞に応募することの実利です。


隠して「読売新聞に載りました」とだけ書くこともできますが、やめておきます。広告だと分かったときに失うもののほうが大きいですし、仕組みを理解したうえで使っていると書くほうが、私の場合は正確です。


再現できること、運だったこと


再現できること。まず、自分の領域の助成金とコンテストを一度棚卸しすること。このコンテストは「ケア」を介護・障害者支援・学習支援・ヤングケアラーまで広く定義しています。枠の定義が広い賞を探すと、自社が入れる場所は意外とあります。


応募書類を、投資家向け資料の使い回しにしないこと。審査軸が違います。

実データがないなら、専門家の推薦と、他人が動いた記録で代替すること。

そして、プロダクトが完成するのを待たないこと。

運だったこと。応募の締切と、開発の進捗が、たまたま噛み合ったこと。もう3か月ずれていたら出していません。

審査員の構成が、たまたま私たちの領域に近かったこと。これは事前には読めません。

川上先生に快諾いただけたこと。断られていたら、書類はかなり薄いものになっていました。


いまは、世に問うところです


アプリは4月25日にリリースしたばかりです。受賞という肩書きは手に入りましたが、それと実際に使われることは別の話で、ここからが本番だと思っています。

このコンテストは毎年開催されています。次の回の募集も、夏から秋にかけて始まるはずです。プロトタイプ部門のほかに、当事者への聞き取りや観察による課題検証の段階でも応募できる部門があります。つまり、まだ何も作っていなくても出せます。


私が応募したときも、まだ完璧には遠い、そういう状態でした。



石渡 達也 Mコンサルティンググループ合同会社 代表社員/スピーチリンク株式会社 COO

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